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TICADⅣに向けた対アフリカ支援策 ~アフリカ支援の飛躍へのターニングポイントの年に~ -平成20年5月


政府は5月28日から横浜で開催される第4回アフリカ開発会議(TICADⅣ)に向けて、今後5年間でアフリカ向けODAを倍増し、同時にアフリカ向け民間直接投資も倍増を目指すとの方針を決定しました。

今回の政府のイニシアティブは、すでに自民党が3月に取りまとめた提言(TICADⅣに向けた対アフリカ支援策~アフリカ支援の飛躍へのターニングポイントの年に~)に添うもので高く評価したいと思います。
参考として、私が対外経済協力特別委員長として取りまとめを行った提言を以下掲載致します。


平成20年3月25日

TICADⅣに向けた対アフリカ支援策
~アフリカ支援の飛躍へのターニングポイントの年に~

自由民主党政務調査会
外交調査会長 山 崎  拓
対外経済協力特別委員長 茂 木 敏 充
外交部会長 髙 木   毅

総論
2008年は我が国においてTICAD IV及びG8が開催される日本外交にとって重要な年であり、我が国が議長国としての立場を最大限活用し、国際社会における重要な課題の一つであるアフリカ問題について主導権を発揮するための千載一遇の機会である。TICAD IV準備プロセスにおいてアフリカの声を聞く我が国の姿勢は、アフリカ側に高く評価されており、我が国に対する期待も大きいことから、TICAD IVにおける議論と成果をG8サミットへ具体的な果実として結びつけることが求められる。本年は、我が国の外交の真価が問われると共に、我が国に対する国際社会の評価に大きな影響を与える年である。

自民党は昨年6月に外交力強化に関する特命委員会において「外交力強化へのアクション・プラン10」を打ち出すとともに、AU議連がアフリカ諸国を積極的に訪問する等、我が国の対アフリカ外交力強化に取り組み、国家戦略本部においても具体的な支援策を検討した。これまでの議論の積み重ねを基に、外交部会・外交調査会・経済協力特別委員会において合同会議を計4回開催し、有識者からのヒアリングを行いつつ、精力的に議論を重ね、本提言をとりまとめた。

アフリカは今、資源や農産物価格の上昇に支えられ、全般的に先進国諸国を上まわる高い成長率を続けている。これを背景に外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)の流入も拡大しつつあり、日本企業にとっても好機となりつつある。そうした光が差し込む一方で、国別の成長にバラツキもあり、低開発国である程困難にあえぎ、感染症や環境問題の深刻化、紛争の後遺症など、陰の部分が大きく立ちはだかり、光の部分を活かしきることができないでいる。70~80年代の経験のように経済成長を腰折れさせることなく、持続的な成長軌道に乗せることが我が国とアフリカの経済関係発展の潜在力から考えても重要である。

更に、本年はミレニアム開発目標(MDGs・2015年が目標年)の中間年にあたるところ、感染症と環境問題等で、特に進捗の遅れているアフリカには重点的なプッシュが必要である。アフリカの目線に立ち、我が国らしいきめ細かい支援を行うべく、様々な措置施策を動員し、我が国の国益にも資する支援を実施することが重要である。

 TICAD IV及びG8を成功させるため、諸外国や民間とも連携しつつ対アフリカ支援の飛躍的転換を図ることが必要と考える。そのため、まず日本政府自らが低下傾向にあるODA予算を反転させ、アフリカの持続的成長に結びつく新たなプログラムを策定するとともに、日本とアフリカ諸国との関係発展に向けて外交実施体制を強化することが要請されている。これらの問題意識の下、以下の具体的支援策を提言するとともに、本提案に対する政府全体の真摯な取り組みを求めるものである。

各論:具体的支援の概要
1. アフリカの成長の加速化 -資金とインフラ-
<アフリカが新たなステージに入りつつある点に着目し、民間活力の導入を通じてアフリカ経済の質的向上・持続的成長の達成を目指す。>
「日本らしい支援」の特徴の一つは、途上国の自立を促す支援である。近年、高い経済成長を実現しているアフリカ諸国が成長を持続的軌道に乗せて貧困削減を実現していくために、我が国としても民間活力の最大限の活用を図るとともに、円借款、官民連携、他の援助国との連携など動員できる手段を活用して支援することが重要である。

●民間企業支援のため投資金融などODA以外の公的資金(Other Official Flows:OOF)の積極的な活用を図り、日本企業の現地でのリスクやコストを軽減し、アフリカ進出を支える後ろ盾となるような支援を目指していく。
●アフリカ大陸のスーパーハイウェイ構想を念頭に、広域道路・電力インフラ整備の青写真を描き、国際社会と一体となった支援(ODA)を進めていく。そのため、他の援助国や世銀、アフリカ開発銀行等の機関との援助協調を積極的に主導する。我が国として、これまで対アフリカ支援としては限定的であった円借款を積極的に運用し、積極的な案件発掘・形成を促進するとともに、これまで債務免除実績のある国も含める等対象国についても柔軟に対応する。
●具体的プロジェクト推進にあたっては、オールジャパンとして公的資金と民間投資との相乗効果を促進する。すなわち、積極的に日本企業のアフリカ進出を支援するため、官民連携案件具体化のための制度を構築し、ODAと企業による投資及びCSR(Corporate Social Responsibility:社会貢献活動)との連携を促進する。

2.国の基盤づくり支援-人材と産業・技術-
<中長期的な視点に立ち、アフリカの経済・社会の基盤となる人材、産業・技術を強化する。>
アフリカが自ら直面する課題の克服を後押しするため、国力の基礎となる政策支援と人材育成をセットにした、骨太の支援を実施する。そのような観点から、主として、無償資金協力と技術協力の強化を通じ、それぞれの経済・社会発展段階に応じ、アフリカが必要としている支援を実施していく。その際、我が国の支援がアジアの発展に大きく貢献した経験をアフリカについても活用し、アジアとアフリカの架け橋として、アフリカ域内及びアジア・アフリカ間の南南協力を強力に推進する。また、拠点を構築して国をまたぐ広域的な支援を拡げる三角協力を活用する。

●基礎教育の充実及び教育システム全体の強化に協力し、成長と自立につながる教育を推進する。
●アフリカの成長の基礎となる農業の育成・強化等の支援を総動員する。その際、農村総合開発の視点を重視した総合的支援プログラムを策定する。●専門家、青年海外協力隊やシニア・ボランティアの知見・技術力も活用しながら、アフリカの農業の付加価値増大、一次産品依存型から産業構造の高度化、とりわけ中小企業育成に繋がるような適性技術の普及に努める。
●限られたインプットで最大の効果を上げるべく、対象国や分野を選んで我が国の科学技術力を活かしたより高度な協力を推進していく。
●将来のリーダーとして自らの国の開発を担う人的資源の開発・強化に向け、留学生・研修員の受入れ大幅拡大のためのプログラムを策定する。経団連を始めとする経済界の協力を得て、日本企業の現地採用などの施策により、具体的継続的な成果につなげていく。

3.アフリカが直面する課題への支援-ミレニアム開発目標の支援強化
<更に深刻化しつつある人類共通の課題克服に向け、支援の量的拡大を目指す。>
ミレニアム開発目標(MDGs)の達成は、国際社会の悲願であり、我が国がなしうる最大の貢献分野でもある。サブサハラ・アフリカを中心とするアフリカでは、特に母子保健や感染症、環境などの分野において、MDGsの実現が危ぶまれているが、こうした分野の支援は我が国が得意とする分野でもある。引き続き国際社会の力の結集に努めるとともに、アフリカの現状を直視し、実現可能性の観点からミレニアム開発目標達成に向けた道のりを検証すべきである。

●エイズ、マラリア、結核等の感染症対策を強化する。同時に、日本が得意とする保健分野の人材育成、母子保健対策、安全な水と基礎的衛生施設の供給などを通じ、単なる病原への対応に止まらない包括的な取組を進める。
●新設される野口英世アフリカ賞等を通じ、アフリカ域内の医学研究者・医療従事者の活動を奨励することで、国際社会の支援とアフリカの自助努力の有機的な連携を目指す。
●人間の安全保障の視点を踏まえた、ドナー諸国、国際機関、民間企業・団体、NGO等の全ての関係者の協力を進める。それぞれの国の事情に精通したNGOとの連携を強化し、草の根の支援を推進するとともに、アフリカにおける日本のNGOの活動を日本政府が支援する。
●環境・気候変動問題の対処のため、クールアース・パートナーシップを通じたアフリカ諸国への支援を積極的に推進する。この際、資源に乏しい我が国の知見・経験や最先端の技術力を最大限活用する。

4.平和の定着支援-アフリカの自助努力支援-
<開発の前提として、アフリカに平和を定着させる支援を積極的に展開する。>
アフリカにおいて一部の不安定な地域を除いて紛争が終結、特にAUを始めとする地域協力の推進等アフリカの平和と安定への機運は高まっている。他方で、国連PKOの約7割が依然アフリカの紛争であるのが実態であり、アフリカの自発的な平和への努力を支援していくことは平和協力国家としての我が国の責務である。以下の施策を通じ、平和の定着・民主化にむけた支援を実施していく。

●紛争中の人道支援、紛争直後の復興支援(含民主化支援、グッドガバナンス促進)そして開発等の平和の定着へ向けたつぎめのないODA支援を実施する。
●紛争や内乱がアフリカの発展の最大の阻害要因であることを踏まえ、アフリカ自身の平和維持能力向上の為の人材育成、治安機関向けの支援を含め、非ODA予算による協力も検討する。
●「紛争予防」や紛争、難民、小型武器、犯罪・テロ等の拡散を防止していく体制・能力向上のため知的貢献も含め支援を進めていく。
●アフリカにおける平和協力推進にあたっては、アフリカ各国のみならず、AU等地域機関・共同体との連携も深める。更に、紛争地で活躍する我が国NGOの支援も積極的に行う。


まとめ:具体的支援推進のための対アフリカ向けODAの拡充
 これまで述べてきた様々な支援策を実施していくためには、資金面でODA、非ODA、政府系金融機関を動員すると共に、我が国の民間活力を活かした官民連携を推進し、国際社会の資金、人材、技術、ノウハウを結集していく我が国の強いリーダーシップが必要である。

しかるに、ODAに着目すると、90年代と比較して、主要援助国の対アフリカ支援の中での我が国の援助の割合は後退しており、その多くを債務救済が占めている。我が国が国際社会における責任ある一国として、アフリカの期待に応え、対アフリカ外交において指導力を発揮するためにも、対アフリカ向けODAを拡充することが不可欠である。また、既に無償資金協力の4割がアフリカに向けられている中でそれを実現するためには、ODA予算全体を拡充し、「真水」の支援を増加することが不可欠である。

 そのような観点から、「真水」の支援の数値目標を設定することも念頭に、次期TICADまでの今後5年間、アフリカ向けODAの一部を歳出改革による削減対象から別枠化することも検討すべきと考えるが考えられる。それにあたっては、当然、より厳しい評価基準が求められる。単に一定額を積み上げる形ではなく、これまでの支援で成果の上がった国に対してそれに見合った支援を更に実施する、民間資金の呼び水効果を査定するという新たな発想の下、「成果主義」から発展させた、「成果加速化プログラム」の策定など、よりダイナミックな支援の枠組みを考案する。

 また、これまで述べてきたような力強い対アフリカ外交を実現し、アフリカ諸国との関係強化を図っていくためにも、在外公館をはじめとするアフリカにおける我が国の外交実施体制を強化することが肝要である。アフリカ53カ国との友好・協力関係緊密化により、国際場裏における我が国の支持基盤を強化・拡大するとともに、我が国外交政策遂行の円滑化を目指すべきである。

 外交のあり方は中長期的に見れば必ず国益に直結する。現下の厳しい財政状況のもとでもTICAD IV及びG8が日本で開催される本年をアフリカ支援の飛躍とわが国外交力の強化のターニングポイントの年にするべく以上提言する。