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国政の動向と今後の政策課題

2012年3月14日参考資料
2012年3月14日

 おはようございます。早朝よりお集まり頂きありがとうございます。
国会は、先週で衆議院の予算審議が終了し、今週から参議院に論戦の場が移りました。この国会、6月21日が会期末のため、このままだと若干の延長があるかもしれませんが、今年は相当波乱含みな政局になるのではないかと思っています。今日は「国政の動向と今後の政策課題」というテーマで資料を用意しましたが、最初は政局の話から入っていきたいと思います。
恐らく、今年は2つの山が来るのではないか。そのどちらかで、この国の政治が動く可能性が大変高い。最初が6月頃、その次が9月から10月です。今国会、例えば「郵政」や「1票の格差と定数の是正」など様々な課題があるが、何と言っても、予算案の審議が終わった後は、「税と社会保障の一体改革」、つまり消費税法案をどう扱うか、ということが最大のテーマになってきます。
自民党は1つの法案を通すために、まずは経済産業部会や厚生労働部会など、個々の政調の部会を通して、その次に政策会議(私が主催しています)を経て、最終的には党の決定機関である総務会を通らないと、与党時代も法案の閣議決定ができないという意志決定プロセスが確立しています。民主党は党内で自民党のような政策決定のプロセスがないため、どう決めたのかがはっきりしません。
消費税法案、野田さんは3月中には閣議決定をしたい。まさに今日からこの議論が始まりますが、率直に言ってこの法案、出てくるものはほとんど何も書かれていないカスカスで、書いてあることといえば、「いつ消費税を上げるか」「何%に上げるか」、このことだけです。例えば、住宅のように非常に大きな買い物をした時の負担軽減策はどうするのかなど、税の具体的な設計ができていない。よく言えばシンプル、実際にはカスカスの法案で、反対する理由はいくらでもあります。


    1.今後の政局:4つのパターン
    民主党内、これから相当揉めると思います。それでも、党の意思決定プロセスがはっきりしていないので、さすがに野田さんも3月末には閣議決定するのではないか。国民新党が離れても3月はどうにか乗り切ることになると思います。
    予算は新年度に入り、恐らく4月8日に成立し暫定予算を組みます。その予算審議が終わると、まさに消費税の議論が始まります。この議論をどれくらいの時間をかけてやるかということですが、最初に消費税を導入したのは1988年の竹下内閣です。この時は委員会、本会議を含め衆議院では96時間30分、また橋本内閣で消費税を3%から5%に引き上げた際には、30時間程度議論している。今回は初導入ではありませんが、税だけでなく、社会保障の議論もある。
    そうなると、衆議院の出口、つまり採決のタイミングというのが5月後半から6月になる。今のまま行くと、よほどのことがない限り小沢グループが賛成に回るということはない。そして今、自民党や公明党も、消費税についてはクリアしなくてはならない問題が相当ある。こういったことができないまま採決になると否決されてしまう。否決されても解散しないということになれば、野田内閣にとって一番大きなテーマが消費税の問題だから、恐らくこれをパターン1にすると、パターン4まで話をしますが、パターン4と同じように9月までずるずると行き、野田さんはそこで終わってしまう。
    では、否決された時に解散を打って出るとする。これがパターン2。小泉さんが郵政の時に、参議院で否決をされ、それでも自分は国民に郵政の民営化が必要かどうか聞いてみたい、ということで解散を打った前々回の衆院選挙、自民党が圧勝をした場合と同じようになるかというと、相当厳しい。
    法案を否決され、だったら選挙といった場合には、消費税を引き上げるか引き上げないか、このことが唯一の争点となり、選挙を戦うことになる。恐らく増税派は勝てない。やはり、無駄の削減でもっとできる、経済成長を4%、5%にすれば(――本当に4%、5%というのはできないが)増税必要なしという第3極を中心にした勢力が伸びることになる。
    このパターン、選挙が終わった後が少し心配で、自民党も、そして民主党も、恐らく過半数はとれない。第3極ももちろん過半数をとれないので、政治が今以上に不安定な状況になり、すぐには消費税を上げられる環境にないという時に、市場が日本の国債に対して相当厳しい判断をするのではないか。国債の暴落――暴落と言うかは別にして、国債価格が相当下がり、日本の経済がかなり厳しい状況になる。
    一方、消費税が通る場合、小沢グループとか、鳩山さんはいつもコロコロ変わるのでわかりませんが、反対をしても通すためには、やはり自民党・公明党の協力が必要になってきます。政策的に幾つか詰めなくてはならない項目について相当修正をしても、我々としては全く解散の担保もないままに「はい、わかりました。消費税だけ通します」とはならない。ただ、ちまたに「話し合い解散」といったことが言われていますが、恐らく解散というのは話し合ってするというよりも、あうんの呼吸です。総理が衆議院でこの消費税法案を通すにあたり、「自分はこの法案が成立したら、すぐに国民に信を問う」ということを言い、我々も賛成をし、法案を成立させ解散する、ということになっていくのではないか。恐らく6月に衆議院を通過し、解散のタイミングが7月から8月ということになる。そうなると、連立の組みかえになりますが、自民・民主の非小沢グループ(今の執行部に近い人たち)、公明党、こういった勢力が入っての新しい連立をつくる。この場合なら、衆議院で過半数、参議院でもねじれがないような状態ができる。総理は誰がなるか。やはり過半数はどこもとれないので、その時点で一番勢力をとった第一党の党首がなる。そして自民、民主の執行部派、また公明を中心に、衆参でねじれない過半数はいくような状態をつくり、その中で日本の直面する様々な課題を解決していくというパターンだと思います。
    最後に4つ目のパターン。冒頭申し上げた、この消費税法案が否決をされても解散をしないのと同じパターンで、結局採決できずにこの国会が6月21日の会期末に終わってしまう。パターン1でも、このパターン4でも、消費税法案をこの国会で通せない、しかも解散をしないということになると、9月の民主党代表選で野田さんの再選というのは100%ありません。自民党も総裁選だから、この通常国会中に解散・総選挙にもっていけなければ、谷垣総裁も相当厳しくなる。新しい民主党の代表、そして自民党の総裁という状態で秋の臨時国会に臨むことになる。
    その時に、特例公債法が残っています。これは赤字国債を出すための根拠法だが、国会でまだ採決がされていない。去年もこれでずっと与野党がもめて、最終的にはこの特例公債法の成立のかわりに菅さんが辞める、ということになった。今年は9月に民主党の代表選もある。そして新しい総理が生まれて、最初に突きつけられるのが、この特例公債法の処理です。
    大体夏までは、税収や建設国債の発行、この財源で予算が執行できます。基本的には、半分が赤字国債だから、この法案が通らないと秋以降は予算が執行できなくなる。そうすると「解散をする。だからこの法案を通してくれ」ということで、解散にいくといった状態が考えられるのではないかと思っています。
    そんなことで、パターンによって違いますが、6月から8月ぐらいの選挙、これは消費税が通っている場合と通っていない場合で選挙結果が違う。消費税が通らない場合は、第3極が相当伸びる。消費税が通った後なら、連立の組み替えも含めて、それなりに安定した政権になっていく。そして9月以降に選挙という場合は、選挙結果も政治の安定度もその中間ぐらい。いずれにせよ、今年はそういった意味で政治が大きく動く年になると思っています。

     

    2.震災からの復興と今後の国土づくり
    (1)復興の遅れ・復興計画の見直し
    3/11(日)に東日本大震災から1年を迎えたわけだが、率直に言って、やはり復旧・復興が遅れている。いくつか原因はあるが、大きく言うと2つ。1つは決めるのが遅い。マスコミ報道を見ると、野党が色々反対しているからという話がでているが、復興関連の法案33本、我々は全部賛成しています。また復興関係の補正予算、昨年一次、二次、三次と組みましたが、これも全て賛成をした。さらに言うと、阪神淡路大震災の経験もあるので「こういうふうにした方がいいですよ」「義捐金の配り方も、1円単位までやっていたらいつになっても配れないから仮払いした方がいいよ」とおせっかいなぐらいに色々なことを提言しました。
    がれきの処理についても、結局地方自治体は20年分のがれきが一遍に出たわけだから、処理する予算がない。国が負担しなければ絶対進まない、ということで、最終的にがれきの処理などについては我々が議員立法を成立させました。復興基本法案も阪神淡路の時は37日で成立しているが、今回は102日もかかった。そういった物事を決めるのが圧倒的に遅い。ここに復旧・復興の遅れの1つの原因がある。
    2つ目は官僚不信とも関連した執行の遅れ。官僚も好かれていないのがわかって、責任も取りたくない。ライト・センター間の落球みたいなことが政治主導と官僚の間で出て、執行が極めて遅れている。お手元に参考資料としてお配りしている「主要な復旧・復興事業の予算と執行率」の【図1】をご覧下さい。実はこれ、半年以上たった段階での予算の執行率です。昨年5月に成立した一次補正、7月に成立した二次補正の話で、秋の三次補正の執行率ではありません。道路や堤防、下水道は3.8%しか行ってない。一番進んでいる学校施設でも3割といった状態です。去年の夏決めた予算がまだ執行できてない。いかに実行力、執行力がないか、ということがわかります。決めるのが遅い、また決めた後はやるのが遅いという状態だから、どうしても復興は遅れる。
    さらに問題なのは、政府が昨年7月、復興の全体計画(東日本大震災からの復興の基本方針)というのを作った。10年間で23兆円、最初の5年の集中復興期間に19兆円という計画ですが、これが極めて安易なプランです。どう作ったかというと、今回、資本ストックのダメージが阪神淡路の被害の2倍ということで、復興事業も×2で機械的に作っている。ところが今回の被害、阪神淡路と比べると範囲が相当広い。青森から茨城の海岸まで500キロに渡って被害が生まれている。さらに地震だけではなく津波そして原子力事故と、複合災害、こういう様相を呈している。
    また、阪神淡路の場合、神戸には経済力があり、民間の力というのが結構使えた。それに比べると今の東北、残念ながら民間の力をそこまでは使えない。やはり国がやらないと、この復興というのはできないわけだから、そうすると×2では難しいと政府にも言ってきた。案の定、そういった状況になっている。
    昨年、1年目の復興関係予算で14兆使いました。2年目である今年の予算を見ると3.8兆。つまり2年目にしてもう18兆使っている。5年間の集中期間の予算が19兆なのに2年で18兆使ったら、3年目、4年目、5年目の予算はほとんどない。この時点で破綻をしています。【図2】にそのことが書いてありますが、点線の部分が阪神淡路の時の復興事業費です。1年目で63%使い、2年目で15%。今回の場合、5年間が集中復興期間ですが、残り3年間で、1年当たり単純平均で使えるのは大体3000億と全体の1%。逆に、6年目以降は1年当たり8000億だから増えるという逆転現象が起きている。この事業費というのは阪神淡路の実績のように年毎になだらかに少なくなっていくのが当然で、もう今の見通せる範囲で、この復興計画そのものの見直しをしていかなくてはならないのではないかと思います。

     

    (2)国土の強靭化”強くてしなやかな地域づくり”
    復興計画だけではなく、今後の災害に対する考え方も変えていかなくてはならない。よく「事故が起きると信号機がつく」「事故が起きるとガードレールができる」という話を聞きますが、災害に対しては、事後に復興するのではなく事前の防災・減災、といった方向に変えていく必要があるのではないか。
    東大の地震研による首都直下型地震が起こる確率は、これから4年間で7割だそうです。首都には、国会や霞が関や企業本社、データセンターなど日本の頭脳中枢機能がそろって、これが一遍に被災したら日本全体が完全に麻痺をしてしまう。東北の比ではない。首都直下型地震のダメージ、マグニチュード7.3の地震が来た時、85万棟の家屋が倒壊し、被害総額は112兆円。東日本大震災は17兆円です。
    それに対し、例えば首都機能のバックアップ体制整備の予算、平成24年度の予算でどれだけついているかというと、調査費のみ、わずか1000万円です。一企業の対策費でも、もっとつけてもいいぐらいではないか。
    我々は党内で「国土強靭化総合調査会」というものを作り、様々な側面からより災害に強い日本列島へどう復活させるかということをやっています。これは、例えば今の首都機能のバックアップ体制の整備や学校、公共施設の耐震化、さらに災害があった時、すぐに自衛隊・レスキュー隊が救援に入れるような交通網の整備や、震災で携帯がつながらずなかなか家族の安否確認ができないといったこともあり、災害に強い情報通信網をどう作っていくかなど含めて、国土強靭化基本法というのを作っています。
    これを成立させ、全国各地の防災対策や減災対策を見直し、事前の対策を打つことにより費用も被害も抑えられる、といった対策を立てていきたいと思っています。

     

    3.日本経済の現状と円高・デフレ対策
    (1)産業空洞化の質的変化と円高・デフレ対策
    衆議院議員480人いる中で、日銀の白川総裁が一番嫌いな議員は私なのではないかと、最近思っていて、これもいいことだなと。今年1/22の党大会でも、この円高デフレ対策に対していかに日銀が何もやっていないか、という話もさせて頂きました。先月の予算委員会でも同じようなことを言っています。
    最近、超超円高から超円高くらいになってきて、若干息をついた感じがある。でも決していい状態ではない。ですから【図3】のように、主要企業の3月期決算も残念ながら軒並み赤字という状況になる。国内で頑張ろうと思えば思うほど赤字になっていってしまう。一方で、以前から産業の空洞化ということが言われていたが、最近は組み立て工場だけではなく、核になるような技術を持っている中堅・中小企業までもが海外に移転をする。【図3】の右側「コア技術の海外生産拠点への移管状況」をご覧下さい。「既に移管をしている」「一部移管をしている」という企業が半分を占める。さらに2割以上の企業が「移管の可能性があり」と深刻な事態を迎えています。この状況を是正するためにも、デフレを解消して円安にしていくことが一番重要になっていると考えています。
    先月、日銀が金融政策の決定会合で、新しい目標というか表現を変えました。それまでは「物価安定の理解」という言葉を使っていた。「物価安定の理解」なんて、誰も理解できない言葉です。ようやく今回、「物価安定の目途」という言葉になりました。責任を取らされると思って「目標」と言わない。「目途」と書いてありますが、英訳を見るとアメリカのFRBと同様に「ゴール」という言葉を使っている。「ゴール」だったら、素直に日本語も「目標」とすればいいのに「目途」という中途半端な表現。イギリスの場合「ターゲット」という、もっとはっきりした「目標」です。
    「ゴール」と「ターゲット」はどう違うか。「ゴール」の場合は比較的中長期の目標で、達成できなかった時の達成義務までは課していない。それに対して「ターゲット」は明確な目標で、期間を3年間などと区切り、達成できなければ責任が問われる。しかも、この「ゴール」と「ターゲット」の目標数値、アメリカもヨーロッパもイギリスも2%となっています。一番デフレの日本だけが1%「目途」。
    「インフレターゲット2%」と、単純・明確にする。さらに言うと今、日銀は金融緩和策をとっている。やれゼロ金利だ、国債を買っていると言っている。確かに国債の買いオペはやっています。ところが一方で、持っている国債の償還が来る。今年で言うと、この3月まで30兆円償還してきています。その引き受けをどこまでやっているかというと、12兆しかやっていない。結果、18兆分は引き締めになっています。一方ではアクセルを踏み、一方ではブレーキを踏んでいては、車は絶対前には進みません。
    まさに日銀がやっていることはそういうことだから、本来ならば、政府と日銀が協定、アコードを結んで、物価目標2%ぐらいに定め、国の国債管理政策についても、日銀は「関与しません」ではなく、きちんと「協調します」という方向を出せば、間違いなくマーケットは反応します。それによって今のデフレ・円高が是正される。
    インフレ誘導で若干金利が上がってくる。しかし、インフレ期待の方が先に出て、その後で金利が少しずつ上昇する。こういったパターンが一番望ましいと思います。何しろ、その過程が回り出したら、日銀が何もしないことです。変なことを言わないこと。マーケットに任せのるが一番重要ではないか。これからも白川さんに嫌がられようが、山口さんに嫌われようが、この日銀の問題については、日本経済のためにしっかりやっていきたいと思っています。

     

    (2)国際競争力の低下と今後の産業政策
    日本の競争力をどう伸ばしていくか。【図4】に書きましたが、例えばDVDプレーヤー、リチウムイオン電池、カーナビ等々の分野でも、日本のシェアが落ちてきている。
    そういった中で、1つは【図5】の「自動車」、この摺り合わせの技術を維持した自動車について日本は強い。また、デジタルカメラも非常に高い国際競争力、世界シェアを維持しています。これは一番中心になるようなところは日本の企業、キヤノンやニコンが押さえているからです。基本的にはCCDという画素を細かくする技術です。画素を細かくするということは、それだけ鮮明に写真が写る。この一番の部分を押さえ、あとは場合によって、周辺の部分の組み立ては必ずしも日本でやらなくてもいいといった分業も、今後は考えていく必要があるのではないか。
    今まで日本は、海外から原料を輸入し、日本で加工して製品を造り、海外に輸出するという、物づくりが一国で完結するタイプの「貿易立国」であった。しかしこれからは、一番おいしいところ、一番重要なところは日本で造り、確実に押さえる。その前後の工程、付加価値の低いところは中国やインド、場合によってはマーケットに近いところで造る。そのサプライチェーン全体を押さえる、投資もするということで、「貿易立国」から「投資立国」という方向に変わっていく必要があるのではないかと考えます。
    資源に対する投資や、インフラの輸出など、いろいろなことがこれから出てくると思うが、一国で生産が完結するというモデルから、グローバルなサプライチェーンの中で大切な部分を日本が押さえる、そのための投資戦略をどうしていくか。こういう「投資立国」に変わっていく必要がある。明らかに世界は今、日本のように人口も市場も伸びていないが技術や資金を持っている国と、人口や市場は伸びていても技術や資金がない国とに分かれているわけだから、日本の持っている資金や技術といったものを世界のマーケット全体の中でどう使っていくかという戦略が必要です。

     

    4.社会保障政策の抜本的見直し
    (1)自助を基本に共助、公助の組み合わせ(年金制度)
    社会保障政策で、自民党と民主党の違いがよくわからないという話を聞きます。シンプルに言うと違いは1つです。自民党の場合は、まず「自助」、頑張れる人には頑張ってもらうというところから社会保障政策がスタートします。現政権は、まず「セーフティーネット、公助」、困っている人は皆さん助けますよ、からスタートをする。その典型が年金問題です。
    【図6】をご覧ください。これは政府・与党が公表した最低保障年金の試算と同じものです。この国会でも話題になりましたが、民主党は「年金を一元化する」「最低保障年金7万円をすべてのお年寄りにお配りをする」と2年半前の選挙のマニフェストで約束をした。この最低保障年金7万円、受けとれるようになるのは何年後か。マニフェストは4年だから4年のうちにはそうなるのかと思ったら、よくよく聞いてみると満額7万円が受けとれるようになるのは今から40年後。65歳の人が105歳まで生きるともらえるようになる。
    この最低保障年金の試算結果、政府がなかなか出さなかった理由はよく考えるとわかります。結果的には誰にとってもよくない。民主党は、ここにあるケース(1)から(4)の中で、ケース(4)をもともと想定していた。給付の範囲を一番広くとるというケースです。しかし、ケース(4)でもサラリーマン家庭にとっては、年収400万円を超えると今の厚生年金よりも受け取り額が減ってしまう。その時に必要な財源は幾らになるかというと、右下に書いてあるように消費税率換算で7.1%。今の消費税を5%から10%にして、さらに7.1%上積みをしないとケース(4)の状態はつくれない。
    これではあまりにも財源がかかり過ぎるため、もう少し給付の範囲を下にしようと、改めてケース(1)(2)(3)というのを作り直した。やってみたら大変なことになってしまった。何が大変かというと、ケース(3)でも、年収が140万以上のサラリーマンは年金の受け取りが減ってしまう。ケース(1)(2)に至っては100万以下でも減ってしまう。これは共済年金でも同様なので、公務員にも同じことが起こる。
    つまりこの共済・厚生・国民年金を一元化することにより、サラリーマン世帯の大半は年金の受け取り額が現行の制度よりも減り、受け取り額を年収420万ぐらいまでの世帯で増えるようにすると、消費税にしたら莫大な財源が必要になってしまう。
    一方、国民年金の加入者は得をするのかというと、そうでもありません。最終的な受け取りは増えるが、その前段階に難関があります。今の国民年金の保険料、月額で基本が1万5020円です。この1万5020円が、例えば平均的な所得400万円の人でいうと、年金一元化で所得比例年金15%に移行していくわけだから、400万の15%ということは年間60万円。年間60万円ということは月5万円。今1万5000円の保険料が5万円。国民年金だから、自分が全額保険料として納めなければならないので、恐らく入る人はほとんどいなくなる。
    サラリーマンも、公務員も、国民年金に入っている人も得をしない。では誰が得をするのか。今まで払えるのに年金を払ってこなかった人、そして今後払えるのに払おうとしない人。こういった人たちが得をする制度になる。ただ、それは普通に考えておかしい。まじめに働き保険料を納めてきた人がバカを見て、まじめにやろうとしない人が得をするような制度では、国民が納得するはずがない。

     

    (2)生活保護の抜本改革
    生活保護でも同じことが言えます。社会保障費の伸びの中で、医療・年金・介護等々と比べて最近一番伸びているのが生活保護で、この3年で25%増えています。生活保護には2つの特徴があり、1つは地域的にばらつきが大きいということです。1週間前富山県へ行ったが、【図7】の一番下にあるように、富山県の生活保護世帯の割合は0.31、1000軒に3軒が生活保護。本当に困っているお年寄りの方、障害者の方、こういう人だけが恐らくもらっている。これが富山県の状況です。
    一番悪いのが大阪府で100軒に3軒。富山の10倍です。都市でいうと橋本さんの大阪市が一番悪くて、20軒に1軒が生活保護。富山県に住んでいると周りの環境を見ても、やはり生活保護をもらうというのは恥ずかしい、働けるのだったら働こう、となる。ところが大阪市の西成区あたりにいると「あなた、もらえるのに何でもらわないの。損しちゃうわよ」「こういうふうにすればもらえるわよ」という感じになっていく。
    もう1つの特徴は、この10年間、現役世代での生活保護が増えているということ。【図8】をご覧下さい。これは確定値で、図の一番左が生活保護受給者。186万人という数字ですが、実際は速報値で言うと210万人までいっている。このうち、大体80万人が20歳から65歳まで。普通で言えば働いている世代の生活保護受給者です。そこの中で、曲がりなりにも少しは仕事をしている人というのは、一番上の白い部分で14万人、17%。また、今政府が提供している就労支援プログラムに入っている人は7万人だから9%。残りの部分、60万人については全く仕事をしていない。
    そして厚労省の分類では、全く働いてない中で就労が見込める人は21万人、就労が困難だという人が38万人。ただ、この数字も私は甘いと思っていて、フルではなくても働ける人、または精神的に病んでいても状況が改善すれば働ける人というのが相当出てくるのではないか。それ以前に少なくとも厚労省が見ても働けるという21万人が、例えば今もらっている生活保護の額を自分で稼いだとすると、毎年5000億近く国の予算が浮くということになってくる。
    働ける人に働けるような環境をつくる。ドイツは、全ての生活保護者に就労支援プログラムを用意しています。入らなければ生活保護費が減額される。この就労支援プログラムにかかる予算は100億円単位だから、全員に就労支援プログラムを提供したらいいと思う。それで確実に数千億の効果が生まれるのだから、やはりどんな仕事でもやってもらう。
    先般、曽野綾子先生が雑誌に書いていました。生活保護の人は、少なくとも霞が関の草むしりでもやれ、と。草むしりがいいかどうかは別として、自分のできる仕事をやってもらう。まず働ける人には働いてもらう「自助」、そして家族・近所・地域コミュニティで助け合う「共助」があり、しかしそれでは足りないので、本当に困っている人には国がセーフティーネット、「公助」をする。民主党の場合、「助けてあげますよ」というところから入るから、大阪みたいな「じゃあ、みんなもらおうじゃないか」という状況が生れてくるのではないか。
    生活保護に関連して、もう1つ大きな問題、これは医療費です。全体3兆2000億円の半分くらいを占めることになります。ご案内のとおり、生活保護の受給者は窓口負担がゼロ、全く医療費がかからない。タダだからついつい病院に行ってしまう。大阪市内、20軒に1軒が生活保護と言いましたが、大阪市内にある39の病院が生活保護専門でやっていると言われている。迎えに行くためにバスを出したりする。ジェネリックももっと使えるのではないかと思います。
    さらに言うと、病院のかけもちをする悪質な患者がいます。向精神薬などを複数の病院からもらってきて、インターネットで販売している。税金からそのお金が出ているわけだから、こういったことは厳正にチェックしなくてはならないと考えます。
    今、国民番号制などの問題が出ています。最終的には、やらざるを得ないと思う。しかし、最低でもそれが導入される前に、税金で生活保護を受けている人にはナンバーを持ってもらい、重複処方していないかレセプトも全部チェックするぐらいのことをやっても批判されないのではないか。本当に病気で1つの病院に行くのであればいい。過剰な処方やジェネリックを使えばいいのに使っていない。こういうところのチェックをきちんとしていかなければ、財政がもたないと思います。
    この年金、そして生活保護を見ても「自助」から始めないと、とめどもなく社会保障費が大きくなってくる。これにセーブをかけていくことが必要です。子ども手当を見直し、児童手当に戻し所得制限を付けたのも同じことです。国には1000万も2000万も所得がある人にまで手当を配る余裕はない。高校無償化も同じで、所得制限をつけ、その分を本当に困っている家庭に給付型奨学金で渡したり、公私間の格差の是正に使う。所得制限などによって浮いた額をより有効な方向に回していく、こういったことが必要ではないかと考えています。

     

    5.今後の政局について
    (1)社会保障と税の一体改革について
    さて、最初の消費税の話に戻りますが、あまり中身の詰まっていない法案が出てくる、ということで議論のポイントが3つあります。1つは、何のために消費税を上げるかというと、社会保障の充実と財政再建のためです。我々の政権の時代から、財政再建の進め方決めていて、2015年に今のプライマリーバランスの赤字を半減し、2020年にこれを黒字化する。今回の消費税の引き上げというのは、この2015年をにらんで、プライマリーバランスの赤字を半減できるかどうか、ということでやっているのですが、2015年の財政見通しの数字がまだ政府から出ていない。恐らく、このまま出したら半減できないので出せないのですが、ではどこの部分を更に削り込むのかということになると、もう地方公務員の人件費部分まで削っていかないと、2015年にこのプライマリーバランスの赤字を半減するというのは無理です。しかし、今の政権で連合・組合を敵に回してまで本当にそこまでできるのか。いずれにしても2015年の財政の姿を示す、それによってもっと切り込まなくてはならない部分を明確にする、これが第一です。
    2つ目に社会保障。当然、この社会保障の維持充実のために消費税の引き上げをお願いすることになるわけですが、消費税を5%引き上げても、社会保障の充実、つまりサービスをよくする方に使えるのは大体1%です。4%分は、今の状態を維持するだけでかかってしまう。つまり2.6兆円しかサービスの充実では使えない。ところが民主党は、子ども手当や年金の一元化など、いろいろ過大な約束をしてしまった。今後は本当にやれること、やれないことをはっきりしなくてはならない。しかし、政府は「順次やっていく」と、こんな話をしている。何で順次やっていくのか。準備が遅れているのも確かにあるが、それ以上に、どこかで確実にはみ出してしまう部分というのが出てくる。1つずつやっていくうちに、だんだん「ああ、これはできないんだな」という諦めの気持ちを持ってもらおう、とこんな感じなのだと思うが、そうではなくて、やはり引き上げをお願いするからには、どういうサービスはやる、そして約束はしたけど、できないことはできない、といったことをはっきりさせるのが2つ目に必要だと思います。
    また、後期高齢者医療制度、これを変えるだけでも8500億円かかる。さらに介護報酬を月額4万円に引き上げる。これでも8000億かかります。こういうものを積み上げていくと全部オーバーフローしてしまうわけだから、何はやる、何はやらない、ということを国会の議論の中ではっきりさせなければいけない。
    そして3番目は具体的な消費税の制度設計の問題をどうしていくのか、ということ。例えば、内税にするのか、外税にするのか。石油関係で言えば、タックスオンタックスになっている、この部分をどうするのか。冒頭申し上げた、低所得者に対する対策はどうするのか。また、住宅などの大きな買い物に対する負担の軽減策はとるのか、とらないのか。さらに弾力条項(景気がよくなったら消費税を上げる)を入れるということだが、弾力条項の書き方も極めて曖昧です。

     

    (2)政権公約と解散・総選挙
    これらのポイントを4月以降の消費税の議論の中で詰めていかなければならい。率直に言って、反対しようと思えば、いくらでも反対できる。しかしその一方で、消費税をこの国会で通さない時に、その後の日本がどういう状態になるか。政治的な混乱、さらにはマーケットの混乱といったことが予想される。これから会期末に向けて、もしくは秋に向けて、私も党の政調会長として色々な舵取りをしていかなければいけないと思っています。
    ちなみに昨日、党で政権公約会議というのを開きました。3月末までには自民党としての次期総選挙の政策の柱を打ち立てていきたいと思っています。先程申し上げた、事前防災の考え方に立った国土強靭化やデフレ・円高からの脱却策、社会保障については「自助」を基本にして組み直す。民主党のように出来ない約束をすべきではない。しかし、日本が直面する様々な課題についてしっかりとした解答を出す。こんな方向で政権公約作っていくつもりです。
    さらには憲法についても、今年がちょうどサンフランシスコ講和条約から60年、4月28日が主権を回復した日で、それに合わせて憲法の改正案を作っています。ニュースを見ると、天皇を元首とするか否か、また9条改正の問題など、一部に話題が集中していますが、例えば、戦争や今回の東日本大震災のような大規模自然災害での混乱、様々なテロなど、緊急事態を総理大臣が宣言したら、法律と同じような効果を持つ政令を国会の承認なしに事後承認でできる、こういった制度も含め憲法の全面的見直し作業を進めています。
    今回の東日本大震災、原発事故で、最先端であったはずの日本のロボットが残念ながら全く使えなかった。その一方で、自衛隊の活動というのは際立った。こういったことを見ると、我が国がこれまで戦争という事態、もしくはそれに近い事態を想定しないで制度の組み立てをしてきた。戦争や大きな自然災害はない方がいい。しかし、ないという前提ではなく、あり得るということで憲法はじめ様々な法律、体制などを組み直していく必要があるのではないかと考えています。
    冒頭申し上げたように、今年は解散・総選挙を含め6月、そして9月から10月にかけて政局の大きな山場が来る。またぜひ国会が進展した段階で、改めて政治状況などをご報告できる機会があればと思います。本日は大変お忙しい中をお集まり頂き、心から御礼を申し上げます。ご清聴ありがとうございました。