日本経済再生本部(第2回)議事要旨

Ⅰ.日時/場所

平成24年10月30日(火)16:00~17:00/党本部 702号室

Ⅱ.議 題

  • 日本経済再生へ向けた方策について有識者ヒアリング
  • 講師 ) 岩田 一政 日本経済研究センター代表理事・理事長

Ⅲ.講演要旨

【1.日本経済の現状】
短期的な動向として、日本経済の現状は2012年4月以降、景気後退に入っている可能性が高い(ヒストリカルDIが2012年4月以降、50を割っている/2001年3月の『月例経済報告』では「足踏みがみられる」と判断し、日本経済が停滞局面にあると認知。その1年後に景気の山が2000年10月であると認定したようにタイムラグが生じる)。
景気後退の要因は、世界経済のスローダウン(ユーロ圏の景気後退、新興国の停滞)、日本版「財政の崖」、日中の関係の悪化、電子部品の在庫調整など。2012年の第3四半期、第4四半期はマイナス成長の可能性が高い。
経済再生のための課題は、復興促進、景気後退阻止、円高是正、デフレ克服、政府債務残高の解決であり、中長期的な課題としては、エネルギーの選択、税・社会保障制度の改革、自由貿易の拡大、人材育成、成長マネーの活用が挙げられる。
【2.有効需要創出】
当面の有効需要創出のためには、特例公債法の早期成立、民間の知恵・民間の資金を総動員しての復興促進(2兆円規模の補正予算―例えば、送電網の整備や周波数の統一、環境不動産市場とJ-REIT市場の拡大による環境都市の整備を柱にしたらどうか)。
 2014年度について、消費税増税に伴う落ち込みリスクを見込んで0ないし若干のマイナス成長が懸念されているが、法人税復興付加税(約8,000億円)の1年前倒し廃止と自動車重量税・取得税の廃止で対応したらどうか。
【3.経済リスク対応:国債価格暴落のリスク/中国のリスク】
日本の国債市場は、「低金利均衡」にあるが、「恐怖の均衡」にシフトするリスクが高い。「低金利均衡」を維持している要因は、期待名目成長率の低さ、国債保有のシャープ比率(Sharpe Ratio)の相対的な高さ(しかし、国債を保有するリスクも上がっている)、日本銀行の量的緩和の継続が各種リスクプレミアムを圧縮しているからである。

 国内の民間部門が国債を消化する能力はいつ限界なのか(「閾値」は(民間金融資産保有残高-政府債務残高)/名目GDPが104%の時点)。限界に達した場合、国債暴落のリスクが拡大、「不愉快な財政ダイナミックス(利払い費の増→財政赤字の拡大→金利の上昇)」が始まる。

暴落回避にはあと10%の消費増税が必要。2018年度以降はかなり危険な状況に陥る。ただし、政府債務残高の問題はユーロやアメリカも同様。
経済問題としての中国の「中所得の罠」のリスク。不動産価格バブルは崩壊の過程であり、国有企業と政治体制の脆弱性を抱える。ルイス転換点と生産年齢人口がマイナスに転ずる2015年以降は6%台成長へ下落。アジアの中で罠から抜け出せたのは韓国、台湾、シンガポール、香港のみ。わが国の対応としては、ASEANのフロンティア国、インドなどへの企業進出を促進し、中国から比重を移すことが考えられる。
【4.円高是正・デフレ克服・産業空洞化防止】
短期的な問題として円高を克服し、デフレを脱却しなければならない。カギは為替レート。
デフレの主要な原因は、1990年代以降の過度な円高基調の持続にある。企業経営者は、先々の円高を予想する限り、固定費用(賃金)カットにより販売価格を引き下げざるを得ない。過半の企業経営者は値下げしないと生き残れないと考えているが、これではデフレから脱却できない。
主要通貨の下落で円とスイスフランが逃避通貨として買われる。日本とスイスはデフレ。
円高を是正するには、グローバルな金融危機による悪影響を防圧し、円高が過度にならないよう基金(金融危機予防基金)を設立し、日本銀行が外債を購入できるようにしてはどうか。
日銀法の改正がなくとも日銀法43条但書により、財務大臣及び内閣総理大臣が認可すれば外債購入は可能(例、株式の買い入れ、劣後特約付貸付、ETF・REIT)だが、直接買うのではなく、財務省と日銀が共同で基金を設立し、金融政策の一環として基金が外債を購入する。民間が参加する「官民協調ファンド」形態も一案。「安全資産」としての外債を購入対象とし、外債の購入に当たっては国際金融市場の安定化と金融政策の目的達成に資するものとする。
日本の名目実効為替レートは1970年代の4.5倍、実質は2倍に。ドイツも名目では上昇しているが、実質はほとんど変わっていない(ウォンは1970年の名目実効為替レートを100とすると、現在は15)。日本は交易条件との乖離が行き過ぎており、輸出の際、日本企業の足かせとなっている(1990年代前半:日本、ドイツとも世界市場での輸出シェア10%程度 → 現在:ドイツ8%、日本5%)。
デフレ脱却に向けては言葉だけではなく、行動で示さなければならない(50兆円という枠を設けて外債を購入できるようにすることは効果があるではないか)。
アジア諸国における事実上のドルペッグ、人民元ブロック体制を変えなければならない。主要国の「通貨戦争」を回避するためには、準備通貨としてSDR(国際通貨基金の特別引出権)の活用を図る必要がある。1つのステップとして、SDR建てIMF債の発行やマクロプルーデンス政策の調整、主要通貨安定化のためのルール形成はどうか。
アメリカ一国を基軸とする時代は終焉。ユーロ危機が世界に伝播する危険があったように、大恐慌のリスクは現存する。IMFが持っている機能を“世界の銀行”へ。
【5.成長モデル:成長目標】
経済成長の要因は、①労働投入、②資本ストック、③経済全体の生産性(TFP:全要素生産性)、の3つである。日本の潜在成長力は、足元0.5%程度。労働力人口に加え、純資本ストックの伸びもマイナスなので経済全体の生産性の上昇のみが頼り。
過去20年の実績を見ると、実質で1%、名目で0%成長。小泉政権時でも実質1.5%程度。成長率は1%程度と見るべきであり、過度な期待の反動として失望も大きくなる。なるべく自然体とし、それにプラスαをしてはどうか。
女性の社会参画を促す(G7や北欧並み)ことで1人当たりGDPを毎年0.2~0.4%引き上げることは可能。また、女性の労働参加率が上昇すれば出生率は高まる。その前提として、非正規職員を正規職員と同じ扱いにすることが求められる(例、昇進、スキル形成、社会保障)。
2100年にはわが国の人口は3,700万人程度(明治維新時並みの水準)になるとの推計。限りなく少子化が進行し、限りなく高齢化が進展する中で、信頼できる社会保障制度を維持することは難しい。長期的に人口規模とその構成について国家目標を持つべきではないか。
【5.成長モデル:エネルギー政策/税社会保障制度の抜本改革】
脱原子力依存の中で、社会的費用を含む発電コストが重要。
原子力存続については、原賠法の改正、規制委員会による新たな安全基準の設定、中間貯蔵地・最終処分地の確定が前提。原子力人材が失われるリスクについては、廃炉、汚染除去、安全技術向上のほか先端的な国際研究開発を実施(英国の原子力廃止措置委員会を参考に、規制庁の下に原子力事業集中管理機構を設けてはどうか/厳格な30年廃炉方針で10年間は収入を国へ集中)。
公的年金改革案としては、A案(即時・保険料廃止)が最も画期的、かつ36兆円規模の減税は経済活性化効果が期待できるが、消費税を15%上げなければならない。
C案(1階部分の税方式のみ実施、2階部分は現行継続)でも有効。法人税減税とセットで消費税7%引上げとなる。成長率の上昇幅は少ないが、国・地方の政府債務残高対GDP比を抑制する。
【5.成長モデル:自由貿易の拡大と人材育成/成長マネーの活用】
自由貿易地域の拡大―TPP、FTAAP、日-EU経済連携協定に加え、ドーハラウンドの締結。貿易に占めるFTA貿易80%目標の実現。
高度な国際人材を国内で育成するとともに海外の高度人材を活用することにより潜在成長率を引き上げることは可能。
国際人材、特に大学の国際化が重要。インターンシップの活用(企業・社会と大学の間の知識移転が重要であり、日本はもっと教育と社会のインタラクションを密接にすべき)。
PFI、PPPの活用。アジア・太平洋地域及び国内におけるインフラ分野での日本の成長マネーの活用(国内事業10兆円)。
日本がリーダーシップを発揮して、アジア債券市場における通貨・債券決済システムの構築。