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産業構造審議会・通商政策部会における新興国戦略に関する発言

平成25年4月18日

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 本日は、主に日本の国際展開戦略、中でも新興国戦略について議論させていただきたい。
 安倍政権が発足して、3ヵ月半が経ち、株価はこの数ヵ月で5割上昇、大きな回復を見せている。過剰な円高も是正されつつあり、日本経済に明るい兆しが確実に見えてきた。
 国民が安倍政権に期待することは、まさに経済の再生、景気の回復。「大胆な金融緩和」、「機動的な財政運営」、「民間投資を喚起する成長戦略」、この3本の矢で日本経済の再生に取り組む。
 1本目の矢、「大胆な金融緩和」について。既に1月に、政府と日銀の間で物価安定の目標の共有をし、日本銀行の黒田新総裁の下で、これまでと次元の異なる大胆な金融緩和を進めており、1本目の矢は射程圏内に入ったと思っている。
 2本目の矢、「機動的な財政運営」について。平成24年度の補正予算は10兆円を超える。絶対に日本経済の底割れを起こさない。こういった補正予算も既に成立し、今週は平成25年度の本予算も衆議院を通過した。切れ目のない対策をしっかりとり、経済の後押しをしていきたい。
 そこの中で一番大切になるのが、3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」。個人消費、さらには企業の投資、民間主導の景気回復をしっかりと成し遂げていく。
 現在、産業競争力会議でも、連日のように議論を進めているところであるが、主に3つの取組を、この成長戦略の中で行っていきたいと考えている。
 第1に、例えば、日本がこれから少子高齢化社会に直面する中で、健康長寿世界一を目指していくということ。また、3.11以降の新しいエネルギー制約を乗り越える中で、新たな技術・事業を生み出し、日本経済の新たなフロンティアを見出していくということ。
 第2に、日本経済の新陳代謝を促進すること。恐らく日本は今、開廃業率は逆転したままであり、英米と比べると非常にまだ低い状況にある。開業率を中期的には10%近いところまで持っていきたいと思っている。日本からグローバル企業、グローバルニッチも含めて、そうした会社を生み出し、さらには企業の収益性を上げることによって、それが所得に、そして消費に、また設備投資にとつながる、良い循環をつくっていきたい。
 第3に、国際展開戦略。今日はこの国際展開戦略の在り方について、私の考えを若干お話しした上で、委員の皆様から御意見を賜りたい。
 これからの日本の国際展開戦略は、大きな2つの柱があると考えている。第1の柱は、国益の確保を前提として、経済連携交渉を積極的に進めること。TPPだけでなく、RCEP、日中韓FTA、日EU・EPAも含めて連携を多面的に進め、アジア・欧州・アメリカのすべてを取り込み、世界に経済連携の網を張る。すべて実現されれば、日本の貿易相手の大部分との間で、経済連携協定を結ぶこととなる。
 しかし、アジア太平洋地域を始めとする新興国と海外の成長を取り込んで、強い日本経済をつくるためには、世界に経済連携の網を張るだけでは十分とは言えない。網を張った上で実際に魚を捕るところまでたどり着かないと意味が無い。実際に新興国に食い込んでビジネス・事業にしていくということが必要。実際に魚を捕りビジネスにしていく、ということが2つ目の柱になる。
 新興国と言われる国々では、2020年までの間に中間層、富裕層が14億人にも増加すると見込まれている。この成長のダイナミズムを取り込むことは、強い日本経済をつくり上げる上で必要不可欠。
 しかし、アジア・中南米・アフリカなど、世界に広がる新興国は、国・地域によって経済発展度合いや、我が国企業の進出状況、他国の企業との競合度合いなどの状況も異なる。より精緻な情勢分析に基づいて、新興国それぞれの状況をきちんと理解した上で、新興国戦略を一くくりにせずに、戦略的に取り組んでいくということが必要。
 今日は、新興国の戦略的な取組に焦点を当てて議論をしたい。
 いわゆる新興国は、世界に散らばっている。これまで、アジア・中南米・中東・アフリカなど、全く状況の違う国々が、一くくりに新興国として扱われることが多かったが、その国、市場の置かれている状況が違えば、攻め方も違うはず。そこで、私案として、新興国を大きく3つのグループに分けた。
 1番目に、約3万社の日系企業が進出し、既に現地で相当程度の産業集積、そしてサプライチェーンを形成している中国・ASEANのグループ。
 2番目に、高所得者層・中間層も育ち、市場規模も大きく、成長率も高いが、欧米企業、韓国企業などと比較して、日系企業の進出が相対的に遅れているインド等の南西アジア、ブラジル等の中南米諸国、ロシア・CIS、中東のグループ。
 3番目に、資源国が多く、今後大幅な人口増が起こり、市場も大規模に拡大するであろうという期待が高い中、日系企業の進出が進まず、言わば不戦敗状態であるアフリカ諸国、のグループ。
 1番目の中国・ASEANのグループは、中国、韓国の追い上げが厳しくなっているものの、日本にとって絶対に失えない、負けられない市場。日系企業のサプライチェーンの高度化等を通じて、更に深く、また、消費市場が拡大してきている中で、更に幅広い産業の進出を促し、ウイングを更に広げて市場を取り込んでいくことが必要。こうした観点から、FULL進出というキーワードを使いたい。
 2番目のグループ、インド・ロシア・ブラジル等の新興国は、大きな成長市場であるものの、地理的要因、文化的要因等々によって、日系企業の進出が相対的に遅れており、言わば逆転を目指さなければならない市場。戦略的にCRITICAL MASSに到達することを目指す分野を絞って、集中的に取り組んでいくことが必要と考えている。
 3番目のグループ、アフリカについては、1つでも多くの成功事例を生み出すことが必要であり、一日も早く日系企業の事業展開フィールドとしてきちんと位置づけられるような状況まで持っていくことが肝要だと考えている。
 新興国について、こうした地域の分類、考え方に基づいて取り組んでいきたい。これがまず第1の軸で、地域の軸。
 もう1つの軸は、海外展開を支援していく上で特に重点分野となるであろう日本企業の海外展開支援、インフラ・システム輸出、相手国からの資源供給確保、といった3つの分野を想定している。これらの重点分野について、既に分類した地域ごとに整理し、縦軸、横軸に戦略的に取り組んでいくことが必要。
 すなわち、重点分野それぞれについて、新興国の3グループの特性・違いに基づき、我が国としての対応を考えていくべきではないか。そういった意味で、3次元のアプローチを考えていきたい。
 まず、日本企業の海外展開支援について。
 潜在力がありながら大企業に比べて海外展開が進んでこなかった中堅・中小企業と、製造業と比べて海外展開が遅れてきたサービス業等に着目して、どのように新興国市場の開拓を進めていくべきか。新しい市場開拓の手法として注目しているクール・ジャパンの取組について、新興国の状況を踏まえて、どのように進めていくべきか。また、課題解決型産業分野として、海外展開の可能性も含めて着目している医療機器・医療サービスの新興国市場開拓をどのように進めていくべきか。
 より具体的な分野について、新興国の3分類に基づいて、その違いを意識しながら資料を整理した。
 同様に、インフラ・システム輸出について、新興国の3地域分類ごとのそれぞれにおいて、どのような形で取り組んでいくべきかを整理した。
 第1に、面的開発の取組として、都市や地域開発の上流段階から相手国と連携し、日本企業の進出拠点の整備と現地市場獲得という形で、明確なコミットメントの上で、かなり長期間かかることもやり切る、大きな成果を出すことを狙うプロジェクト。
 第2に、こうしたものに加えて、相手国政府との政策対話等を通じて、後続案件の地域展開の布石となる先導的な事例を創出するようなプロジェクト。更に、原発や高速鉄道等、今、ほかの国々とも競争が非常に激しくなっている分野で勝ち抜いていく個別案件、こうしたことについて官民一体で取り組み、政府全体として支援をしていく体制を築いていきたい。
 資源・エネルギーの供給確保についても、新興国の地域3分類に基づき整理することを試みた。 3.11以来、我が国は新しいエネルギー制約に直面している。そうした中で供給先の多角化を図り、できるだけ安定的かつ安価な資源を確保していくことが、我が国にとって喫緊の最重要な課題。資源についても、地域ごとに偏在性があるため、どの資源がどこから調達可能かという点を踏まえた資源戦略が重要。
 この際、経済協力、要人の往来も含め、資源国と我が国との間に良好な関係を構築していくことが重要となるが、石油、天然ガス、鉱物資源、石炭など、その資源国が有する鉱種、その資源国の置かれている状況、その資源国が属する新興国グループの地域特性等を踏まえておくことが必要。
 今年はアフリカとの間でTICAD5が開かれるが、そうした国際会議のホスト、総理もゴールデンウィークにロシア・中東地域を回られ、私も中南米のほうに行きたいと思っており、そうした様々なミッションの派遣、投資協定の締結、ODA、リスクファイナンス、あらゆるツールを導入し、注入して可能性を見出していきたい。
 本来、それぞれの分野について、相手国の特有の状況を踏まえた上で、国ごとの戦略を考えるべきであり、ある程度検討はしている。ただ、戦略的に見ると、そのすべてをお示しするということは、言わば我が国の手の内、カードをすべてさらすことになり、我が国の国益上も良くない。
 最後に、これまで述べてきた新興国の戦略的な取組、そして言わば地域戦略を実行していくに当たって必要となる項目について、4点に分けて整理をした。
 第1に、中堅・中小企業及びサービス業の海外展開を促進するため、潜在力、意欲のある企業に対する支援をシームレスに行うような体制を築いていく。具体的に申し上げると、国内には様々な中堅・中小企業、サービス業の海外展開を支援する機関があるが、その連携を抜本的に強化し、支援対象企業に係る情報の共有及び支援策の相互乗り入れを可能として、重点的投入を行っていきたい。
 また、海外に進出した企業が現地で直面する、例えば法律の問題、労務の問題、知財の問題等々、個別の問題に迅速に対処するワンストップの窓口を整備する。そして、ワンストップの窓口では、個別企業の相談対応を行うとともに、企業側の要請に応じて、信頼のできる法務、労務、そして知財等の専門組織の紹介をこれから行っていくこととしたい。
 第2に、我が国企業の進出環境の整備、資源確保、インフラ案件獲得に向けて、首脳、閣僚によるトップセールスから民間レベルの交流まで総動員し、官民一体となったオールジャパンの取組を実現していく。既に始まっている部分はあるが、その取組を抜本的に強化していきたい。
 第3に、現地に進出した日本企業の安定的な操業を行うためのビジネス環境を確保し、送金の自由確保や二重課税の調整など、現地進出・資金還流の障壁を撤廃するため、戦略的に対象国を絞った上で、投資協定・租税協定の締結を促進する。例えば、投資協定については、締結がアフリカとの間で遅れており、少し加速をしていかなければいけないと考えている。
 第4に、新興国の開発案件は、大規模、長期なためリスクが高い上に、現地政府の関与も強いことから、政府が前面に出た後押しが必要。このため、円借款、JICAの海外投融資、JBICの融資を政府が戦略的、かつこれまでとは次元の異なる柔軟さで活用し、リスクマネーを機敏に供給することで、強化されたプロジェクトの組成を促していきたい。
 一方で、テロ・暴動等への対応も含め、海外での事業展開を行う企業のリスク対応強化の動きを支援するために、貿易保険の機能も強化していくことが必要。こうした取組をトップ外交と絡めて実施することにより、我が国企業の海外展開を全面的に支援していきたい。そのためにも公的金融機関の人員体制の強化、さらにはメンタリティーの転換といったものが極めて重要。